【review】売文生活/日垣隆

なぜこの本を手に取ったかは忘れてしまったけれど、読んでみると内容は、文章を書くことを職業とすることがどういうことなのか、を分析した本だった。
「文筆家は食えない」とかネガティブの意見が多い中、本当にそうなのか、著者の体験と色々な文献を通して検証している。
ポジティブでもネガティブでもなく、真実はどうなのか、ということ。


最終的に受けた印象では、原稿料は物価の上昇にも関わらず昔も今も大して変わっていない。だけど、「書く」という実際の行為以外にも、それに付随して講演やテレビ出演などの追加的な収入源も、あるといえばある。何を持って売れないというのか、食えないというのか、今までそこが曖昧で、やりくりがうまくなかっただけという人も少なからずいる。
真剣に取り組まないともちろん成功するわけないけど、普通に生活できる人も多いよ。という感じ。


自分の置かれている状況がどのようなものなのか正確に説明せずに、自分個人の意見を一般論としてしまっている人が多いということ、それを鵜呑みにしてしまうのは危ないということを感じた。


注目すべきなのは、その人の実績や有名度じゃなくて、どれだけフェアな土壌でモノを語っていることだ。
私は書くことを仕事にしようとは考えていないけど、他のことにも応用できる考え方だ。
たくさんの文献を参考にしているので、色々な作家さんの多様な人生観や仕事に対する姿勢が垣間みられたこともよかった。



印象に残ったフレーズ

「あなたの原稿は売れはじめ、あちこちから依頼が来はじめた。あなたはその依頼を、ひとつでも、ことわってはならない。どんなに原稿料が安かろうと、どんなに自分に向いていないテーマの依頼がこようと、全部引き受けなさい。それこそが量産の練習であって、よく言われるような、才能の浪費などではない。その程度のことでダメになるようなら、あなたはもともとダメなのだし、何をやったってダメだ。よくよく気に食わない依頼をことわられるようになるのは、流行作家になってからである。」
(筒井康隆全集22)

どの仕事においても言えること。自分の好きなことをやるのも大事だけど、やり始めたら3年は何でもとことんやる。

「僕は、誰かに話を聞きにいくときは、その人が書いたものをほぼ全部読んで行きます」
「インプットと合うトップットの比率は、少なくとも百対一くらいになると思います」
「事前の準備をどれだけするかで、引き出せる話の質も量もぜんぜんちがうということを学びました。」
「いい話を聞くための条件を一語で要約するなら、こいつは語るに足るやつだと相手に思わせることである。」
(『ぼくはこんな本を読んできた』立花隆)

他人に対する姿勢という意味でとても示唆深い。相手にどういう自分を見せたいのか、相手のどのような部分を見たいのかを事前にしっかりと考えて、それにふさわしい態度をとっていくということだと思う。

「空白の時代が持つ意味というのはね、いろんな苦労をその間にする。暮らしていく上で経済的に大変だとか、何を考えていいのかわからないだとか、旅に出て散々な目にあっただとか。それがあると何が変わるか。対象に対して優しくなるんだよ。追求しなくなる。」
「空白の時代を過ごすことが無理にしても、フリーランス・ライターになりたいと思っている人たちに絶対やってほしいと思ってるのは、自分なりの視点で取材をし、原稿を書くために土台になる学術書と小説を読むこと。」
「一番資料を呼んでるやつ、一番現場を踏んでるやつが最も説得力を持つ、これは間違いないんです。」
(『フリーランス・ライターになる方法』吉岡忍)

今はこの時期なのかな。とにかく知識をためる。そしたらいつか、臨界点に辿り着くはず。

「大手の出版社や新聞社、テレビ局を相手にしていたら、自分ひとりで並んでも手に入れることはできないんです。だけど、そのことに腐る必要はまったくない。大手メディアとか有名な作家にはできない取材方法を自分で見つければいいのだと思って、私はこの仕事をやっています。」
(与那原恵)

比べても仕方ないことと比べて悲観しない。


追記
どこかで、日垣さんがこの本の話をされている文を見た。
言うに、この本は文を売って生活するということのビジネスモデルを紹介したつもりらしい。
確かになぁ。そう言われてみるとそうだわ。
ビジネスモデル、ある意味専門分野でもあるのに、そこを読めないなんて。
まだまだ本の核心なんてつかめない。
勉強しなきゃ。